私が補聴器を販売するようになって3か月が過ぎた頃のことでした。買い替えで新しい補聴器をご購入いただいたお客様で、どうしても前の補聴器の音色に慣れていて、新しい補聴器になかなかなじむことのできないお客様がいらっしゃいました。こちらで何度フィッティングやその他いろいろな事をしても合わないので諦めかけていた時、熟練の認定補聴器技能者が補聴器の音を聞き、お客様のご要望をお聞きし、さっと合わせると、嘘のようにそのお客様が納得され、喜びの笑顔に変わりました。その時に自分もこうなりたいと強く思ったのが資格取得を目指したきっかけです。
それまでは、補聴器に関して手探りで臨む事が多かったのですが、資格を取るために勉強するうちに、徐々に理論的に考えられるようになり、お客様のご要望にもお応えできる機会が増えていきました。そういう経験を積むことで、自分自身に自信がつく部分が増えていったと思います。資格取得後は、お客様のお悩みを解決できる部分はさらに増えていきましたが、ある意味ではやっと補聴器のスペシャリストとしてのスタートラインに立てたかなと思っております。
手際よく聴力測定を行う伊賀さん
単に聞こえを追求するだけが仕事ではない
ある方が、良聴耳の方の突発性難聴にかかり耳鼻科で治療を受けましたが、結局聴力はほとんど戻りませんでした。その方に補聴器を装用することになったとき、最初はかなり聞こえないことに落ち込んでいたため、補聴器どころではなく、補聴器を装用してもやはりご本人様の望む言葉の聞き分けには程遠い状態でした。それでもご家族や病院の方や周りのご協力のもと、試行錯誤を繰り返し、お客様ご自身の気持ちも少しずつ補聴器を通して今できる事をやってみようと変わり始めました。
そんなある日、そのお客様が私にこう話しかけてくれました。「本当に聞こえなくなってわかったのだが、補聴器はどうしても言葉の聞き分けに重きを置きがちだけれども、本当はそれだけではなく、周りのいろいろな環境音が聞こえるから役に立つものなのだね」と。私はその言葉をいただいたときに、「補聴器=聞こえる事」を重視しすぎていた私自身に気づき、私自身がお客様に教わりました。その時から私は聞こえだけにとらわれず、お客様のQOL(Quality of Life:生活の質)を満足させるのは何かと考えるようになったと思います。
伊賀さんの勤務する店舗看板(上)と店内(下)
お客様に喜ばれる、やりがいのある資格です
この仕事をしていて良かったと思えるのは、お客様からお金を頂いておいて「ありがとう」と「感謝される仕事」だという事です。また時としてはその「お客様の人生に関わる大事な仕事」でもあるので、こんなやりがいのある仕事は少ないと思います。
私にとって認定補聴器技能者とは「聴こえを通じて出来る最良のパートナーになること」だと思います。認定補聴器技能者になるまでは長い道のりになりますが、資格取得までの5年間に多くの認定補聴器技能者を目指す方々に出会えます。志や考え方はさまざまでしたが、いい意味で本当に勉強になり、良き思い出が残りました。これから資格取得を目指すなら、人生において自分自身も成長できる本当にやりがいのある仕事だと思いますので、ぜひ頑張ってほしいです。
お客様に補聴器を合わせるのに私が一番大切にしているのは、そのお客様にとってのQOL(生活の質)を満足させる選択肢は何かを、今自分が出来る選択肢から的確に判断し、サポートしてさしあげることです。お客様は十人十色、ご要望も当然そうなります。少しでもお客様にお応えできるように自分自身も日々成長し、努力しております。
おわりに
「認定補聴器技能者」の役割、大切さを実感していただけましたでしょうか。幅広い知識や秀でた技能だけでなく、認定補聴器技能者になるための「5年間」の頑張りを支えた思いや理念はきっと、みなさまの補聴器ライフに大きな安心感をもたらすことでしょう。